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2016-06-10

【No.17】杜若(かきつばた)を愛でましたか?

2016年の折返し地点が、近くなってきました。

「杜若(かきつばた)は、楽しみましたか?」

昨日は、月2回通うお能の稽古でした。

先のセリフは、稽古中に、
先生がおっしゃった言葉です。

今、お稽古している謡(うたい)は、
『藤(ふじ)』という演目。

藤の精が出てきて、成仏するまでのお話です。

4月後半から5月に咲く、棚などから垂れ下がって咲く、紫色の花、あの藤です。

『藤』の中に、
四季のうつろいの中で、
自然は、さまざまな姿をみせてくれる、
というようなくだりがあります。

そのくだりを謡った後、先生がおっしゃったのが、

「寺尾さんは、杜若(かきつばた)は、楽しみましたか?」

今年はだけでなく、思い起こせば、ここ何年も見ていない…。

「寒い寒い冬に、待ち焦がれていた春。

春から夏にかけての、咲いては散っていく、美しい花々を、ぜひ味わってください」

と、いうようなことを言われました。

気がついたら、もう、あじさいの季節ですもんね。

平家物語の有名な一節。
――――――――――――――――――――――――――――
祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
沙羅双樹(さらそうじゅ)の花の色 盛者必衰の理をあらわす
――――――――――――――――――――――――――――

沙羅双樹は、これからの季節に咲く白い花。
朝咲いて、夕方には花びらを散らさず、花のまま落ちてしまうのだそうです。

「盛者必衰」という世の無常、はかなさを、沙羅双樹にみて、
象徴する花として登場させています。

私は、6年ほど前に、関東から関西に引っ越してきました。

夫の転勤による引っ越しで、正直うれしくありませんでした。

転居して間もない頃、ある晴れた日、
駅に向かう途中、目の前に、紅葉が始まったばかりの山の景色がありました。

さまざまな色が重なって、空の青さとのコントラストが、それは美しく、感動的でした。

沈んだ心にしみ、自然に涙があふれていました。

山の木々が、弱った私をなぐさめ、勇気づけてくれたのです。

自然を見て泣きそうになるなんて、自分でも驚きでした。
(「歳じゃない?」とか言わないように!?)

「杜若(かきつばた)は、楽しみましたか?」

という先生からの言葉は、
余裕のない今の私を、見透かされたような気がしてしまいました。

だからこそ、ドキッとしたのだと思います。

聴くことも、書くことも、伝えることも、
どれも、感性を磨いた方が、スキルとしても高まると考えています。

そもそもスキル以前に、人生を楽しめると思います。

草花や木、山などの自然は、ただ、そこに存在し、精一杯生きています。

人間は、自分たちの都合で、伐採したり、食べたり、勝手なことをしつつも、
そこから学び、何かを投影し、何かを感じる。

自然の景色、草花を愛でる心のやわらかさ、感性はいつでも持っていたいですね。
それくらいの余裕は、もちたいものです。

杜若(かきつばた)はもう終わってしまいましたので、
今日は、ちがうお花を買ってきました。
以前は毎週のように買っていましたが、最近飾ってなかったな~。

花ある生活、いいですね。